純金バブルに突入。プラチナとのねじれ最大に
純金価格(K24)の上昇が止まらない――。
金相場が史上初めて1グラム=7千円の節目を突破した。ここ10年の間、3500円から5000円のレンジでさまよっていた金相場は、2020年のコロナ禍による経済不安の高まりを背景に「有望な資金の逃避先」として人気が急上昇。金相場はわずか半年程度で一時7500円を超えるまでに急騰した。
しかし、コロナ禍という事情を踏まえたとしても、足元の金相場はバブルに近い様相を示しており、注意が必要であると筆者は考えている。
その理由を、金よりも貴重な「白金(プラチナ)」と比較しながら確認したい。
“30倍希少”なはずの「プラチナ」が「金」の半額?
そもそも経済不安が高まると、なぜ金の人気が高まるのだろうか。それは「価値の普遍性」にある。諸説あるものの、金の有史以来の採掘量は全体で50メートルプール約4杯分しか存在しないといわれている。希少な物質であり、その価値の高さは世界のあらゆる人々が認識している点で普遍的であるといえるだろう。
また、信用リスクがないことも大きい。現金・国債・株式といった金融商品にはいずれも中央銀行・国・企業といった「発行体」が存在しており、それらの信用度に応じて価値が上下する。その一方で、金には発行体が存在せず、サビたり腐ったりすることもないため、半永久的にその価値を維持できる。そう考えると「金自体の価値が上昇して金価格が上昇する」というよりも、「現金等の信用度が低下して価値が下がった結果、金が相対的に浮かびあがってくる」という表現の方がより本質的なのかもしれない。
プラチナは、先ほどの50メートルプールの例えにならえば、その総量は1杯分に到底及ばない。これまで人類が手にしたプラチナの総量は、このプールでかろうじて足首が浸かる程度、わずか7000トン程度にすぎないとされる。希少度だけで考えると、最低でも金の30倍以上となるはずのプラチナであるが、その価格は15年を境に逆転した。現在は価値と価格のねじれが発生している状況にある。そして、そのねじれはコロナ禍で過去最大レベルまで拡大しているのだ。
ここで注目すべきは、やはりコロナショックにおけるプラチナと金の価格かい離拡大にあるだろう。コロナショックでは、プラチナが当初は大きく下落したのに比べて、金は上昇基調を強めた。その理由をひも解く鍵が「産業需要」にある。
決定的な違いは需要構造に
世界各国で金融情報の提供を行っているREFINITIVのレポート「GFMS GOLD SURVEY2019 」によれば、金の年間総需要3980トンのうち、約77%に相当する3052トンの需要が、宝飾品や個人投資といった「貴金属としての需要」となっている。産業需要は391トンと約1割程度にとどまり、産業需要の停滞が価格に及ぼす影響は軽微だ。
ではプラチナの需要構造はどうだろうか。同じくREFINITIVの「PLATINUM GROUP METALS SURVEY 2019」によれば、プラチナの年間総需要242.6トンのうち、約70%を占めるのが自動車触媒や化学・エレクトロニクスといった産業需要にある。一方で、宝飾品・個人投資という「貴金属としての需要」は残りの3割程度と、金よりもはるかに低い比率なのだ。
景気が停滞すると主に産業面からプラチナの需要減少が発生し、供給がだぶつくことで値下がりする。ここから考えれば、プラチナが金と比べて景気動向に左右されやすい様子が分かるだろう。
この特性は、より産業色の強い「銅」を重ね合わせるとよりはっきりと浮かび上がる。図表は、2013年の価格を100としたプラチナと銅の比較チャートである。これをみると、銅とプラチナが高い相関で推移しており、コロナショック時に急落してから反転するという動きも一致している。
金はバブルなのか
そうであるとしても、金価格は半年で30%を超える破格のリターンを示している点に要注意である。金よりもはるかにリスクの高い株式の期待収益率が、超長期の年率換算で4〜6%程度であるにもかかわらず、今年の金のリターンは株式をはるかに上回っている。
それを可能たらしめるのは、「投機」にある。投機とは、物事の本質的な価値に資金を投じる投資とは異なり、値動きや需給の緩急の先行きを予想して利益を得ようとする動きである。
いくらプラチナに占める産業需要の比率が高いといえども、流通量が30倍も異なるのであれば、金の半額以下で推移するプラチナはやはり“安すぎる”といっても過言ではない。本質的には、金とプラチナにおける景気後退への耐性は貴金属という面から見れば同等であるはずだからだ。
そうすると、プラチナは、「産業需要の低下により受給が緩む」という側面で価格が抑えられており、金は「貴金属としての需要増加により受給が締まる」という側面で価格が押し上げられているとみることができる。このような投機的な側面が価格差の拡大を招いている可能性がある。そうであるとすれば、長期的にはこのような価格の逆転現象は次第に解消されていく可能性が高い。
ただし、「有事の金(K24)」という言葉はあっても「有事のプラチナ(Pt1000)」という言葉は存在しない。一番手に比べて二番手、三番手は知名度がはるかに劣るものだ。「金」が有事における最高の資産退避先であるというイメージがあるのであれば、それ以外の貴金属に目を配らずに金に人々が殺到する事もうなずける。
人気の高まりに便乗する形でプロの投機筋が参入することで、さらに一段の価格上昇が発生する可能性がある。これまでは投資と縁が遠い人物が金投資の話をしたり、周囲で金の話題を頻繁に耳にしたりすることがあれば、これはかつての歴史で幾度となくみられたバブル相場であるといわざるをえない。金価格のバブル相場化とその後の崩壊には細心の注意を払うべきだ。