貴金属の金・銀・プラチナ 今売るならどれ?
金やプラチナ、銀といった貴金属投資の選択肢が広がっている。上場投資信託(ETF)や積み立てサービス、現物など投資商品が増え、金額や売買のタイミングを選びやすくなった。貴金属といっても商品ごとの性質は様々で、値動きも違う。特性や投資のポイントをまとめた。
■「無国籍通貨」の性格
貴金属で個人投資家に最もなじみが深いのは金だ。現物の価値が変わりにくく、古くから貨幣として使われた。現在でも「無国籍通貨」としての性格を持ち、基軸通貨のドルの代替として投資される傾向がある。価格はドルと逆の方向に動くことが一般的だ。
米国の金融政策が金の値動きを大きく左右する。金は利息がつかない。利上げ政策の場合、債券や預金といった利息がつく金融商品の魅力が高まる。半面、金の投資妙味は落ち売り材料になる。利下げ局面はこの逆で、利息が減る金融商品に比べ金の投資人気が高まり買われやすくなる。
■危機時の受け皿に
ドル安も金価格を大きく押し上げる。例えば2011年、一部格付け機関が米国債の格付けを引き下げた。基軸通貨ドルへの信用が下がりドル安が進行。代替投資先としてマネーは金に流入し、史上最高値を付けた。経済や政治の混乱リスクが高まると、株や為替から資金が逃避する受け皿とみなされる。2015年の欧州ソブリン危機の際も金にマネーが集まり、国際価格は半年間で1割近く上昇した。
金以外の貴金属で有名なのはプラチナと銀だ。通貨としての特性が強い金と対照的に、プラチナは自動車の排ガス触媒用といった工業用需要が6割を占める。銀も電機や熱の伝導率が高く、太陽光発電やスマートフォンなどに使う。どちらの金属もマクロ経済や景況感の変化によっては金と異なる価格変動を見せることもあり、貴金属同士の分散投資に一役買っている。
■割安感が目立つ銀
プラチナは有史以来、産出した量が金の26分の1にすぎない。金より希少なはずが、金より安い国際価格が最近は続いている。独フォルクスワーゲンの排ガス不正問題で、欧州を中心にディーゼル車離れが進みプラチナの供給がだぶつくとの観測が根強い。
銀も金に比べ安さが注目されている。金価格を銀価格で割った「金銀比価」を価値の推計に使うことが一般的だ。ここ20年の平均で60倍程度だった比価は2018年2月ごろから上昇。3月中旬時点で約85倍まで上がり、相対的な銀の割安感が目立つ。過去80倍を超えたのは1991年湾岸戦争や、2008年のリーマンショックなど、地政学リスクや市場不安が高まるタイミングだった。「2019年は銀が買い時だと感じる」とICBスタンダードバンク東京支店の池水雄一支店長は話す。
■積み立て投資なら小額から可能
貴金属への投資はETFや定額の積み立てが一般的だ。ETFは株と同じ感覚で手軽に取引できる。三菱UFJ信託銀行の「金の果実」シリーズなどがある。価格は日々変動するが、数千~数万円で購入できる。積み立ては小額から始められる。田中貴金属工業(東京・千代田区)などの地金商や、ネット証券もサービスを展開する。貴金属の中でも特に金は「安全資産」といわれ、損をしにくいイメージがある。しかし、相場の乱高下で損失リスクも存在する。各商品の特徴を理解したうえで、投資額や期間を決めて臨むことが重要だ。
(黒瀬幸葉)「日本経済新聞朝刊2019年3月30日付」
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